チャンガン・リー:身体でコラージュする身体

 

Interview by Ayae Takise
All image courtesy of the artist


コラージュアーティスト、チャンガン・リー(Changgang Lee) は常に疑い、更新し続ける。古雑誌等のビジュアル素材や、日常で生まれたスクラップをサンプリングし作り上げる一連の作品は、シリーズ毎に明快なアプローチのバリエーションを見せつつ、一貫した揺るぎない世界観を持つ。とりわけ「身体」に対する自覚が更新を加速させ、作品の強度を築きあげていると言える。

モチーフとしての身体のみならず、自身の制作姿勢における身体性にも焦点を当てた作品集「THE BODY / 身体」刊行にあたり実施したチャンガンへのインタビュー。当初メールで送ってもらった本人のテキストと、生身の対話で得られた話の「コラージュ」を通して、彼のこれまでの作品制作の変遷や哲学を伺った。

―そもそもコラージュ制作を始めたきっかけは?

自分の表現を模索する中で、2015年頃からコラージュにフォーカスして制作し始めました。他にも写真やドローイングなどを試したこともありましたが、コラージュは作る過程で偶然によって作品が変化していった先で、ふわっといきなり出たものに対する納得感が一番強かったんです。

Untitled (2015)

Untitled (2015)

 

Artwork for CoSTUME NATIONAL 2018 S/S

 

前は古雑誌のディテール感を使って生の一発勝負でやる美学みたいなのがあったから、デジタルツールを使うのに抵抗があったんですよ。最近はいい意味でそういう頑固さがなくなってきて、新しいものを自分に取り込みたい時期。でも最終的に手で素材を構成して仕上げることは守ってます。

具体的には、一度プリントしたものをもう一回コピーするとノイズが強くなるのでそれも利用してます。絵を歪ませるために素材をコピー機の中で動かすのは、身体的な行為だし偶然性も高い。コピー機が光った瞬間回してみたり、動かしたあと元あった場所に戻してみたり。動かし方のクセも見えてきます。

From Exhibition at SR Coffee Roaster & Bar (2020.10-11)

 
 

Untitled (2020.10-11)

Untitled (2020.10-11)

Untitled (2020.10-11)

―印刷物以外の要素が入ってきたことで、仕事のクオリティや画面構成力がまた違う形で見えてきたように思います。

初期はかなり細かくフォルムにこだわって、細かな要素が重なってくことだったり、無意識にどんどん要素を足してもう貼れないって段階まで持っていくことに面白さを感じてました。

最近は、以前のスタイルを壊してくことに満足を感じています。貼りながら考える量が増えたのは、基礎があるからできることだと思うし、初期にはできなかったことだと思います。

 
 

―身体や顔って記号性が強いので、ある意味ズルい素材ですよね。よくあるコラージュアートって、その強さに頼るような作品も少なくないと感じるのですが、チャンガンくんの作品は記号性の高いものと抽象性の高いテクスチャーを一体化させて、言葉で説明しにくいレベルまで昇華するアプローチも多い。

そういう絵作りは多いですね。2016年に開催した初めての個展「Idolatory」では、抽象度の高いモチーフ、例えば岩や布だけで作った作品も展示しました。顔は分かりやすいモチーフでいやでもそこに目がいってしまうし、絵作りするうえでも頼っちゃうので、「顔を使わなくてもこれだけできる」ということを示したかった。曖昧な余白があって、捉える人によって受け取り方が違うほうがちょうどいいし、自分でも百パーセント分かりきらないのがちょうどいいです。

展示「Idolatory」(2016.12@MIDORI.SO 2 Gallery)より

 
 

(デッサン用のモデルポーズ集は)それこそ影や線を綺麗に描く参考として作られた本なので、用途的にちょうどいいです。

身体の捉え方を学ぶ教材で、身体が素材として純粋に写真に収められているからマッチするのかもしれないですね。人体以外にも、岩のようなテクスチャーが結構出てくるのが気になります。

岩ってディテールのパターンとしてすごくいいんですよ。それも多分光の当たり方が要因になってて「ちょうどいい岩の感じ」というのがあるなあと思います。

 

Symbiosis (2018)

 

今の雑誌だと、自分も同時代を生きてるからあまり奥行きを感じない。古雑誌は時代感もあるし、匂いが濃いじゃないですか。

Marlene Dietrich (2019)

Judy Garland (2019) / いずれもTHE KNOT TOKYO Shinjuku GALLERYでの展示(2019.2-4)より

―すごく気になる。詳しく聞かせてください。それを用いる時に絵作りに変化は出ますか。

無意識にビジュアルのかっこよさで選ぶだけじゃなくて、そういう感覚もあるかもなあって。明確に「自分の感情をこう表現しよう」と意図して作品を作ったことはないです。でも結局素材を組み立てるプロセスが自分を鏡で見るような、投影する作業だと捉えてるところはあります。出来上がった絵を見て「こういう感情があったのかな」って気づくことも。怒りの感覚があればちょっと荒く激しくなったりする。

―あとからプロセスや完成作品を振り返ると、自己診断的に見えてくるものがあると。

そうです、ひたすら自問自答みたいな感じ(笑)作ってる時はひたすら吐き出してもがいてるけど、振り返ってみると結果的に(作品作りに)救われてると思いますね。

郷愁/Nostalgia(2018)

Untitled (2020)

Metamorphosis (2020)

Collage Work for THE KNOT Tokyo Shinjuku (2019)

 
 

―「自己破壊衝動」「自分の葬式を演出する感覚」強力なパンチライン来ましたね。

そんな感じ、あるんですよ。フロイトも、ポジティブな本能とネガティブな本能があるって言ってるじゃないですか。そのネガティブなものって絶対あると思う。死にたいって思うわけじゃないけど、誰にでもある負の本能を美的に表現したいという意識はあるかもしれません。「きれいごと」っていうのがあまり好きじゃないというか。

最近デビッド・リンチのドキュメンタリーを見てたんですけど、彼が若い頃死体の腐敗の仕方を見たくてネズミの屍を集めたって話があったんですね。彼としては、すごいものを見たという感動があって、その集めた屍を父親に見せたらドン引きされて「お前は将来絶対子供を持たない方がいい」と言われたと。まあそこまでいかないけど、なんとなく分からないでもないです。リンチは怖いことをしようとして一連の作品を作ってるんじゃないと思う。おこがましいんですけど、なんか同じ匂いを勝手に感じてます(笑)

制作の様子

 
 

―2020年12月に発表した作品集「THE BODY」について教えてください。

普段1日がかりでコラージュ制作に取り掛かる前、ウォームアップ的に取り組んだものをまとめた作品集です。今まではモチーフに背景があったり、顔にクローズアップしたものも多かったのですが、もっと単純にフォルムだけを理由にサンプリングしてみて、しかも身体だけにフォーカスしてみようと思いました。

でももっと大きなテーマになってるのは、頭で作るより身体で作ること。シュルレアリスムの作家、アンドレ・ブルトンが考案した「自動記述」という文学実験の方法があるのですが、簡単に言うと制限時間内に原稿用紙を高速で埋めるというものです。無意識の筋肉の動きで作品を作るある意味とても身体的な方法だなと、同じようにコラージュ制作をできないか、と思って始めました。普段は考えながら素材を色んなところから選びとって徐々に組み立てていくのですが、このシリーズでは予め使うと決定した素材だけを揃えて、頭を使わないで作業することだけに注力してます。

―「身体で作る」ことにフォーカスしてみて、どんな変化がありましたか。

もっと身体感覚に近い行動をとるようになって、カッターナイフを使わず手で破って貼ってるものも沢山できました。身体感覚で行うスタディがメインの制作に反射的に出て、繋がりを感じたので、自分にとっていい作用になったと思います。通常の制作はやっぱり「一個作るぞ」って意気込みがあって肩に力が入るので、そこを崩して作るためにもバランスとってる感じですね。

制作の様子

“LAYERED PERSONAS” Personas 36
 

Changgang Lee / チャンガン・リー

古雑誌などを組み合わせたコラージュ、ミクストメディア作品を手掛ける。現在は東京を拠点にしながら、ニューヨーク、バルセロナでの展示への参加など、日本国内外問わず幅広く活動している。自らの作品制作の傍ら、アートワークや、ブランドとのコラボレーションなども行う。

Website: http://changganglee.com/
Instagram: @changganglee

 
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