リドス=ソレンソン:神話と自然のレッスン
Interview, edit by Ayae Takise
アーティストデュオ、Rydh/Sörenson(リドス=ソレンソン)が作るコラージュ作品は、一見どこかとぼけた印象もある愛らしさに、ひとつまみの毒を含んだビジュアル。それとは裏腹に、作品の背景にあるのは私たちの身体性・精神性と自然のつながり、そして目に見えないものを感じ尊敬することへの真摯なヒントである。
*このインタビューは、「アポカリプス・シリーズ」について複数の往復書簡を経て編集されています。
photo by Ginelle Hustrulid
神話や古伝承をモチーフにしたきっかけを教えてください。
コラージュワークを作り始めた時、公私のパートナーであるダニエルと一緒に神話と古伝承がテーマのポッドキャストを聴き始めました。スウェーデンで生まれ育った私たちは、幼い頃からスウェーデン神話や民間伝承に親しんできました。私はギリシャ神話にも興味があって、そのドラマチックさ、星座とのつながりを魅力に感じていました。
北欧の気候はとても厳しく、人々は自然のことを意識せざるをえません。水、空、雲は身を守る方法でもありました。だから北欧の神話は自然ととても密接な関係。日本や韓国にも似たお話があると思いますが、樹々や石、水や森全体に宿る精霊の物語があるんです。
私たちは自然全般に興味があります。美しくて心地よい存在であるだけでなく、都市部の人間である私たちにとって未知の何かを宿しています。私たちが作品を通して伝えたいのは、必ずしも目にすることはできないけど、存在を感じられるものごとについて。神話や古伝承は、未知の存在に対する敬意の気持ちや、自分を取り囲むものごとに対して意識的であるように、と教えてくれるものだと思います。
Apocalypse series, 2016, A4 size, no 20
Seen Scenes Collectiveより購入可能
「アポカリプス(黙示録・世の終末)」という名前の由来は?
このシリーズは、世界が終末を迎え始める時にあらわれる「サイン」を描いています。自然界の発するサインを理解して読み解くことは、残念ながら私たちが失ってしまった力だけれど(もしかすると世界はすでに終わりを迎え始めてるのかも?)それでも私たちの魂はまだ自然とつながっていることを感じうると思うし、人間の身体は自然の一部なので、それが本来あるべき状態だと思ってます。
Rain Pink Sky, 2016, 25 x 25 cm
Seen Scenes Collectiveより購入可能
具体的に描いている神話・古伝承のモチーフについて教えてください。
例えば半人半木の姿で深い森へ誘惑する木の精霊Skogsrå(スクーグスロー)、自らの美しさで人を水中に誘い込み溺れさせようとするNäcken(ネッケン)。いろんな言い伝えのバージョンがあるけど、共通してるのは人間が失踪したり、全財産を失ったり、悲劇的な死を迎える結末です。
北欧神話上の「終末の日」Rangnarök(ラグナロク)の物語では、空の色が変化する前兆があらわれます。旧約聖書にも同じような記述がありますね。
Apocalypse series, 2016, A4 size, no 02
Seen Scenes Collectiveより購入可能
このテーマは、他の作品とどのようにつながりますか?
私たちはいつも、自然を描くことに立ち還ります。自然そのものについてだったり、自然に身を置いた時に感じること…何か原始的な存在と接している時にどう感じるかについてだったり。
以前はよくアーティストレジデンスプログラムに参加して、いろんな素晴らしい環境を沢山経験しました。ある時はアメリカ・ワシントン州スポケーンの雪山を登り、またある時はブリュッセルの古い大木がある庭園へ。フェロー諸島(デンマーク)は、神秘的な風景に魅了され2度訪れました。
Anna and Daniel during their residency programs from “Environmental Ephemerals”
パンデミック下で2人の小さな子どもと一緒に暮らす今、以前と同じような創作活動の時間は確保できませんが、ほぼ毎週末車で森林へ向かうようにしています。自然が私たちに安心を与え、クリエイティビティと想像力のきっかけをくれることにいつも感動します。Environmental Ephemeralsの試みも、コラージュワークも、こういった身体的空間と精神的空間の関係性と、自然の中で私たちが経験できる目に見えない素晴らしさが原点にあります。
Light Blue With Dots, 2016, 25 x 25 cm
Seen Scenes Collectiveより購入可能
Crazy Pink Sky, 2016, 25 x 25 cm
Seen Scenes Collectiveより購入可能
神話や古伝承は、私たちの身体について何を教えてくれると思いますか?
多くの神話は、人間に自然の恐ろしさに気をつけるよう戒める物語です。現代においてそれは意味が希薄なことかもしれません。でも自然の中をさまよえば — 森でも、海の中でも、山の上でも — たちまち私たちよりもはるかに大きい、途方もない力に気づかされます。とても大事な経験だし、自分の身体はこの広大な景色の中の一つの点に過ぎないのだという視点を得る方法だと思います。未知の環境に身を置くだけで、「I(私)」「we(我々)」の概念、空間やスケールの捉え方が変化します。
Purple Sky Snow, 2016, 25 x 25 cm
Seen Scenes Collectiveより購入可能
制作時のダニエルとあなたの役割分担は?
ふたりの子供が遊んでいるような感じだと思います。床に座って(どんなに大きなテーブルがあっても足りない!)たくさんの切り抜きと絵の具で塗られた紙をあたり一面に散らばらせて。ダニエルはどちらかというと完璧主義で、背景をとてもきれいに仕上げてくれます。私はスピーディに進めていくタイプで、素材の切り抜きを一片残らず使うよう心がけます。お互いに提案し合うやりとりを続けて、落としどころを見つけるまで往復します。
提案は、切り抜いたり塗ったカタチとして出てきます。イメージを作る時、解決しなければいけない問題によく直面しますが、誰かが助けてくれるのは嬉しいし、相手の悩みを解決するのも楽しい。そういう意味ではとても柔軟かも。お互いに良い影響を与えたい、できることを見せたいという気持ちがあるから、ベストに挑戦していつも一緒につくり続けているんだと思います。
Red Sky, 2016, 25 x 25 cm
Seen Scenes Collectiveより購入可能
スウェーデンの言葉で「身体」を用いた、ユニークで国民性を表す慣用句はありますか?(例えば英語の「break a leg(幸運を祈る時にあえて不吉な内容を伝える)」、日本語の「腰を据える」「腹を割る」など)
沢山あります!ほんの一部の例を挙げると、本音とは違う建前で人を誘うという意味の“Bjuda med armbågen”(人を肘で誘う)、落ち着くよう呼びかける時の“Håll huvet kallt” (頭を冷やして)、ゆっくりする時は“Dra benen efter sig” (足を後ろに引いて)などがありますね。
Apocalypse series, 2016, A4 size, no 36
Seen Scenes Collectiveより購入可能
デジタライゼーションの時代における、身体性と精神性とは?
デジタル情報やイメージは多くの人に届く、圧倒的なポテンシャルを持っています。思考は(身体がなくても)美しく伝播し、デジタル空間に身体的な意識を持って入ることができるとも考えています。私の身体と同じように、思考もさまよう必要があります。私の思考がどこに向かうか、時折じっくり向き合っていたいです。
リドス=ソレンソン
ストックホルムを拠点に活動するダニエル・リドス、アンナ・ソレンソンによるアーティストデュオ。サイトスペシフィックアート、インスタレーションや映像を制作。滞在制作等を通し、自らが生きる社会背景を探り、美的人類学の手法を追求している。これまでにベルギー/ブリュッセル、米国/スポケーン、スコットランド/フェロー諸島、ラトヴィア/ツェーシスで滞在制作、作品発表を行う。2016年よりNYのギャラリーEd. Varieに所属し2016年にNY、2017年にLAで展示。2017年はフェロー諸島のThe Nordic Houseで映像とパブリックインスタレーション展示を行う。
リドスはユトレヒト芸術学校ファインアート専攻卒業。ソレンソンはスウェーデンのUmeå Art Academy(BFA)、NYのプラット・インスティテュート(MFA)卒業、ブリュッセルのA.Passでパフォーマンスアートのpost-masterを取得。
Website: https://rydhsorenson.com/
Instagram: @rydhdaniel @sorensonanna