シロヤマユリカ:自分と自然のゆらぎのあいだで

 

Interview by Ayae Takise
Image courtesy of SOM GALLERY

シロヤマユリカ《i land》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 

線↔︎面、自然↔︎身体の往来

―去年の初個展(「Yolk」2023年3-4月SOM GALLERYにて開催)は部屋の中、身のまわりのものがテーマでしたが、今回の個展『Hot Spring』は「自然性・自然(じねん)」がテーマ。より雄大なスケールを感じる作品も多くなっています。

この一年のあいだに、都心の中でも自然が近い、水流が豊かな場所に住むようになったことは影響してるかもしれません。モチーフとして自然と身体を融合させながら、同時に線と色面を融合させることは意識にありました。

―人体をモチーフにした絵画作品の点数も増えてます。

daily drawingシリーズ(シロヤマが日課として続けているドローイング:Instagram @dailydrawing_s)では人の身体をよく描いてたのですが、キャンバス上にこれだけ描くのは確かに初めて。展示テーマに合うドローイングをdaily drawingから選んでペインティングに発展させたり、新たに描いたものもあります。今回は特に「何を描くか」を考えることにすごく時間をかけていた気がします。線の中に奥行きみたいなものをどう表現するかという考え方だったり、技法的なことは前回とあまり変わらないかもしれません。

―シロヤマさんの絵画作品はこれまで比較的シンプルでフラットな色面分割の表現が多い印象でしたが、例えば今回の《Bloom》では花びらの線の交点がよく見るとずれていたり、そこに立体的な表現が見られます。

描き進めていくうちに「こういうのが必要なのかも」って。やっと自分が描いているものを立体的に捉えられるようになりました。フラットな表現が基本なんですがブラシの跡が見える加減とかディテールのことはまだ実験中で、やってみないと分からないことはまだ多いです。

 

シロヤマユリカ《Bloom》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 

―自然を構成するエレメントがいくつか描かれている中でも、水の存在が目立ちますね。今回の展示タイトル《Hot Spring》に込めたものは?

daily drawingはただ自分のためだけに描いて湧き上がってくるもの。自分にとっての精神的な意味での温泉みたいなものだと思ってます。展示タイトルにもなっている《Hot Spring》はそれを象徴している絵です。自分自身でつくった湖に自分が映っているけれど、それは「自分」ではなくて山。(ペインティングとして)描き進めて色をつけてみたら「頭の部分が火山なんだな」と後から意味を発見できたりとか。色を当てはめていくと意味がついてくる、ということはよくあります。

 

シロヤマユリカ《Hot Spring》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 

―Seen Scenesのイメージビジュアルを4年前に作っていただいた時のことを思い返していたのですが、線描から色面構成に発展させるプロセスがありましたよね。線と色面の世界は全く別次元で変換が発生する、ということを改めて思いました。今回の展示作品でもそういう変換がさまざまな形で起こっているのでしょうか。

《Light of heart》は展示作品の中で一番最初に描いたもので、どこにでもあってなんでもない場所、どの次元にもあるけれど自分の手の中に灯ってるもの。《Hands on soil》はそういう意味ではあまり「変換」はなくて、daily drawing=線で見てる世界に色をつけてペインティングにした作品。影絵を作るように両手でカタチを作って、テントウムシが目になってます。

 

 シロヤマユリカ《Light of heart》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 

シロヤマユリカ《Hands on soil》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 
 

―線と面、それぞれの発想が交わったり離れたりしながらペインティングになっていくんですね。

 

呼び起こされる身体の意識

―フラットな表現が基本だからこそ、絶妙な実在感が出る不思議さがありますよね。特に描かれてる身体の仕草が魅力的です。

例えば寝そべっていたり、腕を覆うように広げたり、というよく描く仕草のパターンは確かにありますね。

―daily drawingシリーズもそうですが、見ていると自分自身の身体を確認したくなってくる。描かれた身体に流れるテンションに共感してしまうというか…なんなんでしょう。踊りを引き出されるような心地もあるし、文章も書きたくなるし。


そういうのいいですね、作品と並ぶことで種明かしみたいになるし。ちなみに個展「Yolk」ではミュージシャンのOsonoさんとダンサーの後藤美春さんに、作品からインスピレーションを受けたパフォーマンス「黄身とわたしと部屋(yolk, me and my room)」を実演してもらいました。

 

作品を観た方には「物語に寄りすぎてない」と言われました。シュルレアリスムの絵だともっといろいろなことが画面上で起こっていると思うんですけど、もともとデザインを学んでいたので、描くものに意味を求めたり「言いたいことは削ぎ落とす」って考え方が染みついちゃってるところがあって。絵って意味がなくてもいいものだし、あったとしてもひとつに絞らなくていいものだけど、自分が何かを描くときは意味がないと描けない。だから今のところは自分の中での最低限の理由づけというか、これは描かなきゃいけないってところまで内容を絞ってます。

―だから絵から広がる余白があるのかもしれないですね。見ていて絵の圧がちょうど良いというか、観る側のあらゆるテンションで関われる余白がある。
最後に、シロヤマさんにとっての「身体をとおして見る世界」「自分にとっての心身」について聞かせてください。

言葉にして共有するのが難しいなと思いつつ…今回の展示作品に関して話すと、身体は身体として描いてるのではなくて、山として、水として、島として、葉っぱとして、すべて自然として描いてます。《Hot Spring》のように、自分自身が山である、それはどういうことなんだろうと…禅問答みたいになりますが、自分はどこにもない、あやふやな存在だって感じる感覚がわりと好きでしっくり来ます。

―「自分自身の身体を確認したくなる」とさっき言いましたが、もしかするとシロヤマさんの絵の魅力はそういう感覚への応えとして生まれてるのかもしれません。

この考えはダイレクトに作品につながってるわけではなくて飛躍しすぎかもしれませんが、自分も他の誰かも「身体が自分である」という状態はいつかはなくなるわけで、すごく怖いと思ったり、そこにある痛みについて思うことがあります。でももともと身体は自然の一部だったので、もとある自然に還るんですよね。「自分自身が自然の一部である」と制作途中で気づくことができて、先取りグリーフケアじゃないけど、そう思えて楽になった自分がいます。

 

シロヤマユリカ《Moonlight》2024年 Courtesy of SOM GALLERY

 

シロヤマユリカ / アーティスト

東京都生まれ。武蔵野美術大学でグラフィックデザインを学んだ後にニューヨークに渡り、現在は東京を拠点にアーティストとして、自身の作品制作にも重きを置いて活動しています。主な個展として、「Untited」BLOCK HOUSE(東京、2022年)、「Yolk」SOM GALLERY(東京、2023年)。主なアートフェアとして、「ART FAIR ASIA FUKUOKA」SOM GALLERY(東京、2023年)等に参加。

https://www.instagram.com/shiroshiro

シロヤマユリカ個展「Hot Spring」

会期:2024年3月23日(土)ー 4月 14日(日)
時間:13:00~19:00 (水–日) ※月火曜休廊
会場:SOM GALLERY(〒103-0003 東京都中央区日本橋横山町4-9 birth 5F)
https://www.somgallery.com/hotspring

 
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