それぞれの表現をひらく「unfold」:後編

 

Interview by Ayae Takise
Image courtesy of the artists

ダンス公演「unfold」(2022年11月11日・12日上演)出演メンバーにフォーカスをあてた それぞれの表現をひらく「unfold」:前編(福島頌子、Mei Yamanaka、田花遥) に引き続き、今回はダンサーのタマラ、岡本葵の2名に話を伺いました。

岡本さんはふだんダンスとは別の本業を持ちながら表現活動を継続しており、タマラさんは現役大学生ながら中学時代から舞台出演等で精力的に活動しています。コンテンポラリーダンスに至った経緯もそれぞれのお二人が、今「ダンス」に関わるにあたって感じていることが、今後の「何か」につながる可能性もあると信じて、記事として公開します。


―今回「unfold」出演に至ったきっかけを教えてください。

岡本葵(以下 岡本) 幼少期からダンスのお稽古を続けていて、大学生時代にはコンクールへ出品をしたこともありましたが、今はダンスとは別に本業があって、仕事終わりや休日にレッスンに通っています。

(unfold主催の)福島頌子さんとタマラさんのコンタクト(インプロヴィゼーション:パートナーと体の接触を続けながら動き続けるボディワーク)ワークショップにも参加して、そこでお二人と直接知り合って、今回の企画にお声がけいただきました。10月初めから髙橋幸穂さんとデュオ作品を作り始めたのですが、公演のために自分で作品を作る機会は初めてです。すごくワクワクしています。

岡本葵 振付作品「白河夜船」

タマラ 今年4月に頌子と一緒に開催した自主公演「岸部にて」を終えたあと、二人でまた作品を作りたいと話していたんですが、なかなか場所が見つからなくて。その時は1時間近い尺の作品を作ったのですが、今回は10分程度の短編になる予定です。

自主公演「岸辺にて」よりソロ作品

―お話を伺っている現在、公演まであと1週間あまりというタイミングですが、クリエーションの状況はいかがですか。

岡本 私と髙橋さんの作品は、まずは言葉のやりとりから始めました。やわらかなイメージの言葉の音や雰囲気を感覚的に作品に落としていくところから始まったんですけど、途中から世の中の不条理や正義にまつわる話、どう生きていくかという大きな話にガラリと変わって・・・今は試行錯誤、取捨選択を重ねた結果、スタート地点からかなり色んなことが変化しています。少なくとも身体を鏡に映した限りは「この感じだな」と納得しつつあります。

タマラ 私と頌子はこれまでも一緒に作品を作ってきて、言葉から入る時と身体から入る時、それぞれあるんですけど、今回は鏡を見ながら「お、これかわいいじゃん!」って言いあいながら直感的に進めています。どちらかと言うと意味は後付けしてくことのほうが多いです。今回もコンタクトを続けて、緩んだり力んだりのバランスをずっと調整している感じです。

岡本 お二人のコンタクトはワークショップにも参加して見ているのです、とてもクリエイティブな動きが多いと思います。

タマラ ありがとうございます。でも人の作品で踊るときとは自分の体にどう動きを落とし込むかに集中できるけど、自分で作品を作るときは色んな邪魔な情報が入ってきちゃうし、より下手に思えてくるから、基本的にずっとうーんってなって大変ですね。あと1週間で本番で、近日他の出演者と考えや途中経過をシェアするんですけど、ひたすら恐怖ですね。今はクオリティのことよりも、とりあえず形になった達成感でいっぱい。

 

自主公演「岸辺にて」よりソロ作品 撮影:むうみん

 

岡本 私たちはまだできるかできないかギリギリのところにいるんですが・・・二人で作ってるので、それぞれの視点から作品を客観視しつつ、unfold全体の中での私たちの立ち位置がどうあったらいいかというのは考えたい、という話もしてます。お客さんに観ていただくことで何かを持ち帰っていただけたら、作品を見せて見られる機会が何かにつながれば、という気持ちでやっています。

―岡本さんはダンスとは別にお仕事があって、タマラさんは現在大学生ですがいずれダンスを仕事にする目標を持っています。「unfold」主催の福島さんは「限られた作品披露の機会を自分たちで作りたい」「ダンサーから自然に出てくる作品を」というお話をしていましたが、それについてはどのように感じていますか。

岡本 私は単純に踊るのが楽しくて好きで、本業を別に持ちながらダンスをやっている身なので、こういった企画に関われるのはありがたいです。でもこういう機会を個人ではない大きな組織が提供してくれたら豊かな国になるのに、なんて思ったりして(笑)個人的に、日本は芸術がお金になるならない、実用的かどうか、理解できるかどうかと言う基準で振り分けられて、結果的に表現の機会を作るハードルが高くなる環境かもしれないと思うことがあります。

だからなのか、私が知ってるダンサーの多くは、別で仕事をしている傍らで踊る人がすごく多くて、ダンス一本の生活にたどり着くまでが過酷だなと思います。仕事としてダンスをやっている方もそうでない方も、色んな角度から色んな場所で「芸術やりたい人はどんどんやってください」という状況で活動できる機会が増えたら、とは思います。

写真/髙橋幸穂

タマラ 私、最初タイトルを「unhold」と勘違いしてたんですね。「ホールドできない=全体が掴めない、ひとつの意味に絞れない」というのが、コンテンポラリーダンスと一緒だなって思って。

「コンテンポラリーダンス」ってなんだろう、ってずっと考えてるんです。私はジャズヒップホップやジャズファンクなどストリートあがりなので、自力でバレエや「コンテ」のレッスンを見つけて通ったり、そこで出会った先生の作品に出たり、オーディションを受けながら活動してきました。でもコンテ作品のオーディションを受けていても、ストリートの経歴があるから受からないと感じることもあります。ただコンテが好きだから踊りたい。でも私が近づきたくても、「ストリートあがり」ってレッテルを貼られている時点であちら側にはいけないんだなって感じることが多くて・・・

―「ストリートあがり」という意識があるから、コンテンポラリーダンスの界隈と距離を感じている、ということ?

タマラ そうかもしれません。あと、「コンテンポラリーダンス」と「それ以外のダンス」という線引きが強いとも感じます。コンテは自由に見えて、なんだかんだ他のジャンルより作品を披露する場所やコミュニティが限定されているなあと。

それじゃ意味ないって思うけど、私ひとりが声をあげて何かが変わるわけでもないし、そういう自分自身も「コンテンポラリーダンス」の場所を探したり、出る作品を判断する時も結局ジャンルを意識してしまって、参加した作品を経歴に書けるって思ってるところがある。かと言って他のコンテンポラリーダンサーの作品に出た経験が自分を「コンテンポラリーダンサー」にするわけではないと思う。

AYUBO/moemodan/詩音/莉伯/タマラ共同作品「ほし」撮影:大洞博靖

タマラ だから「unhold」って読み間違えた時に、新しいチャンスを掴むために挑戦するイメージでぴったりだと思いました。結局勘違いだったんですけどね(笑)

岡本 今話を聞いてて思ったのは、その線引きがある理由は多分、コンテは他のジャンルほど分かりやすくないので名前をつけたくなってしまうからなんじゃないかなと。芸術表現は、かんたんに答えが出るものではなくて、むしろ観てる人が「これなんだろう?」って考えたり、「今なんだかわからないけどかっこいい、すごかった」って感じられることが醍醐味だと思うんですね。それは最終的な表現のことだけでなく、それ以前のことも同じなんじゃないかなって。

 

―「コンテンポラリーダンス」というより「身体表現」という言葉を使った方が、今回「unfold」に参加される皆さんとしてはベストな落としどころなのかもしれない。それにしても、ジレンマありますね。

タマラ そうなんですよ。自分の動き方がダンスコミュニティの影響を受けてることにセンシティブになったり、どうでもよくなったり・・・まだわからないことも多いんですけど。

岡本 そういうのがあるからこそ「ちくしょう」って踊るのかもしれない(笑)私も自由に踊っていて、私ですら何をやってるか分からない時もあるし、観てる人もきっとそうだと思うけれど、でも好きだからやるし。っていうスタンスを貫き通せる自分でいたいし、それで大丈夫な世の中であってほしい。

タマラ まあ私も、結局かるく「だいじょうぶでしょ!なんとかなるっしょ!」ってなるんですけどね(笑)


タマラ @1680_tamt

7歳からダンスを始め、10歳の時にジャズ、バレエ、コンテンポラリーダンスに出会う。14歳からDance Space Wing公演をはじめ様々な舞台、大会、PV出演を経験。2021年CJD DANCE competition シニア部門優勝。松田尚子演出・振付「Whearabouts」出演。2022年、福島頌子との自主公演「岸辺にて」演出・振付・出演。現在は様々な振付家の作品に参加しながら、自らもコンテンポラリー作品の創作に励む。

岡本葵 @aoi.okmt

宮城県出身。4歳よりモダンバレエを習い、後にミュージカルや演劇への関心を持ち、シアターダンスやジャズダンスに触れる。上京後、コンテンポラリーダンスを主に踊る。踊りながら還っている。その他の関心は、英語教育とフェミニズムとシュルレアリスム。
〈主な出演作品〉2021年6月二見一幸「Les noces」、2021年11月石神ちあき「伽藍-秋景-」
写真/髙橋幸穂


「unfold」公演情報

2022年11月11日(金)12日(土)
両日とも17:30開演 / 19:30開演
@Cafe MURIWUI(東京都世田谷区祖師谷4-1-22 3F)
チケット:¥2,800(ドリンク付き)


<出演>
岡本葵、髙橋幸穂、田花遥、タマラ、福島頌子、Mei Yamanaka、Rina Takeyama

 
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