それぞれの表現をひらく「unfold」:前編

 

Interview by Ayae Takise
Image courtesy of the artists

少し長い前置きにはなるが、日本の「コンテンポラリーダンス」は海外のそれと比べて、コミュニティや「業界」のあり方が特殊だ。「ダンス」全体で言えば、ダンスの授業を義務教育で受けた世代が成人しはじめ、ごく最近になって企業が参入するダンスのプロリーグ、ダンサー育成事業を目的とする各種施設、レジデンス機能のある創作環境などが立ち上がる動きも出始めている。しかし依然としてダンスをプロフェッショナルな仕事として成立させ専念できる人々は限られているのが現状で、そういったパイが増えていくには多分に時間も環境整備のプロセスも必要だろう。トップダウン型以外の動きだけでなく、さまざまな界隈の自発的な底上げの動きも同時発生して初めて目に見えた変化があらわれるのかもしれない。

いわずもがな、産業的な「需要」に限らない「文化芸術活動としてのダンス」の場は日本でまだまだ少ない。しかし国内での活動の場を求め、時にダンス以外の仕事も持ちながらレッスンに通い鍛錬を重ねる人々が現実にいる。無論、SNSでさまざまなダンスの短編動画が氾濫する状況になっても、そもそもダンス関連の媒体も書き手も非常に限られているので、彼ら彼女らの表現者としての真意について綴られた情報が伝達される機会はなかなか生まれづらい。でもそんな人々からもじっくりリアルな声を引き出せば「何か」が出てくるんじゃないか?それ自体を別の何かに性急に紐付け、結論づけるつもりはないが、表現の共有機会をパフォーマンス以外でも大小名めいめい重ねることで、ダンスそしてダンサーの「ひらかれる」可能性が可視化されていくように思う。

そんな仮説のもと、友人であるダンサーの福島頌子をはじめとする7人のダンサーによる自主企画公演「unfold」(11月11日・12日上演)に向けたインタビューを前編後編に分けてお届けします。彼女たちそれぞれの経験や視点が、今回のconversationや来たる公演を経て今後もどのように「ひらかれて」いくか、本記事を機にお見知り置きいただければ幸いです。

左から福島頌子、田花遥、Mei Yamanaka

―今回の自主公演を開催しようと思ったきっかけはなんですか。

福島頌子(以下 福島)大学生の頃からダンサーとして活動してきた約7年間、「踊る場所」はたいてい他の誰かに提供されていたものでした。例えば通ってるスタジオや振付家の方のもとで踊ったり・・・でも他人頼りで踊ってて本当に大丈夫かな?とずっと思ってて。

「ダンサーは身体を人に晒すことが仕事。晒し続けて評価を受けなければいけない」と言うダンスの先生がいてその通りだなと思ったのですが、晒す場を作ることが他人頼りだとある程度主催者の個性やディレクションが前提となります。そういったものから自由に、それぞれからナチュラルに出てくるものを知りたい、その場所づくり含め自分で手掛けたいと思いこの企画が生まれました。出演者それぞれに10-20分のソロまたはデュオ作品を作ってもらうことを条件に、身体表現にフォーカスした作品を上演する予定です。

振付・出演作品「Dusty」企画:ぷらっと遊び場 / 撮影:TAK @tky66

―他の出演ダンサーに声をかけた意図を教えてください。

福島 「ひらけた場所」にしたいと思って皆さんにお声がけしました。
田花さんは付き合いが長くて、私が大学生の頃出入りしていたストリート系ダンスチームの先輩。当時からセンターでドーンと目立ってるわけではないのに、いつも何かを静かに考えてる。そんなミステリアスな雰囲気が好きでした。その後直接踊られているところを見ていなかったのと、自主公演を延期したという話があったのでちょうど良いとお誘いしました。

田花遥(以下 田花)頌子には言ってなかったんだけど、その自主公演をカフェムリウイで11月11・12日に予定していたんです。

福島 えー!知らなかったです。それが中止になったところに「unfold」が入ったってこと・・・?

田花 そういうことなの。春に首を怪我してしまいギリギリ悩んだんですが、延期を決めて。だから5ヶ月ほど踊れてないんです。9月になってようやく症状も落ち着いてきた頃に自分の公演と同じ場所・日程で公演する「unfold」の誘いをもらったので、これは踊れってことだなと思って(笑)すぐ引き受けました。

2021年11月「koten #15」(カフェムリウイ / 東京)上演作品より。photo by Yohta Kataoka

福島 どうしても11月に祖師ヶ谷大蔵で踊って!ってことですね。
Meiさんは夏に見た公演で一目惚れして。普段インプロ(即興)をSNSに投稿していてその姿も興味深いし、振付作品を踊っている映像も拝見してとても素敵だったのでお願いしました。

Mei Yamanaka(以下 Mei)インプロと作品づくりは自分の中ではかなり違うもので、後者は時間も労力も使う大変だけどとてもだいじなこと。全てのパワーを投入してできた15分の作品がたった1回しか上演しないということもたくさんあります。自分がダンスを作る立場にいるから、他の作品にさかれたエネルギーや作り込みの大変さもよくわかる。自分の作品もそういうフィルターで見られる意識があるって分かっていて、その土俵で評価が欲しいのかもしれない。

Yamanakaがインプロをまとめた動画は多数Youtubeにあがっている

Mei でもダンスを知らない方にはそういう裏の努力は一切分からない。一生懸命頑張った作品よりも、時間をかけずになんとなくパッと動きたいように動くのが、もしかするとお客さんにとっては楽しい時間になりうるかもしれない。身体的な質感がインプロと振付では変わるし、振付されると「合わせにいく」ことにエネルギーを使ってしまってベストを尽くせないこともある。でも「作品」をまとめることで自分をプッシュする状態を作って、上演する必要がある・・・そういう闘い、せめぎ合いはあります。だから福島さんにオファーをもらった時、自分をプッシュせざるを得ない状況を作るにはいい機会だなと思って参加しました。

―田花さんは、「unfold」に参加するにあたって他に意気込みはありますか。

田花 今はフリーランスとしてカンパニー所属などせずに活動しているのですが、20代前半はずっと国内のカンパニーに所属して活動したいという思いがありました。でもカンパニー数自体多くないし頻繁にオーディションがあるわけでもなく、ご縁がなくて。ここ1-2年でその気持ちは薄れてきて、そろそろ他の方に振り付けられるだけでなく「自分のダンス」を作って見せていかなければと思うようになりました。自分の強みはこれ、と言えるものに作り手として向き合って創作しようとやっと思えるようになってきたのが最近です。でもやっぱり、そういった場をもつには他の方のもとでやるか自主公演をするしかない。さっき福島さんが言ったことには同感です。

―今回の振付作品は(取材時10月上旬)まだ初期段階にあると思いますが、現時点での構想などはありますか。

田花 踊るときは、たとえ決められた振付を踊ったとしても、常にその振付を初めて踊る感覚でやるということを決めてます。絶対に「事前に踊り込みました」って見せ方にしない、常に新たな感覚の身体でいたいってずっと思ってます。この感覚は今回の作品のベースにもなると思います。
あと、まだ首を怪我してるので物理的に無理な動きもあります。痛みを抱えた身体でもゆっくり静かに動いて面白く見せられないかというのを研究してます。でもすぐ速く動きたくなっちゃうのでそれは気をつけたい(笑)この2つが作品の軸になりそうです。

2021年11月「koten #15」(カフェムリウイ / 東京)上演作品より。

―Meiさんはどうですか?

Mei コンセプトは結構考えます。取って付けたようなことはできないので。どう展開させるかはまだ分かりませんが、今考えてるのは「ふくらはぎ」。谷川俊太郎の詩で、ナンセンスで無意味なことって実は大切、という内容が書かれています。それにハッとして、これだったら自分の作品のコンセプトとしてできそうだなと。詩がすごく素敵なので「何もしなくていいな」って思っちゃうくらいなんだけど、逆に言うと「何をしてもOK」。踊りも一緒だなって思います。

 振付作品「now now」より(2016年NYにて初演。2017年にかけて米国内で複数回上演)

―福島さんは普段からコンタクトワークのワークショップを共催したり、さまざまな場所でともに活動してるタマラさんとのデュオですね。

福島 3月の自主公演「岸部にて」を作ってる時からコンタクトワークをたくさんやってきたので、今はお互いの身体がだいぶ馴染んでます。実は二人で踊る作品は初めてなので、やるとしたらコンタクト由来の動きをしたいと言う話はしてます。

二人ともアタマが重たくて考えたがり(笑)思考がものすごく広がるがゆえに身体や動きに落ちづらいので、アタマを空っぽにして身体的なアプローチからやっています。ただ普段考えてることがいつか動きにハマる時が来そうな気がしてるので、それにも期待してます。

振付・出演作品「一人遊び」企画:おどらぼ 写真/結和

―今回話を聞いてどうでしたか?

田花 創作活動は一人で行うことが多いので、他の方の話が自分の作品にも影響しそうで、すごくいい機会だったなと思います。

福島 もしかするとみんな一人でやりすぎちゃってるかもしれない、と今日の話を聞いて思いました。ディスカッション必要ですよね。

Mei 自分に全くないもの、見たことないものを出すっていうのはほぼ無理ですよね。お互いに影響を受けながら全体の中にいるってことを受けいれながら、それぞれのインスピレーションを自分の感覚でまとめていく、その時出てくる個性が素敵なことだと思うんですよね。きっと「なにか」を生むっていうことに意味があって・・・それが「なにか」は分からないけど。

福島 影響を受け合う場所が、今回の「unfold」かもしれないですね。


福島頌子 @shoko_fukushima

栃木県出身。足腰の強い身体に生まれる。
幼少期に数年間クラシックバレエを習うも、持ち前の体格の良さのあまり数年で断念。高校時代に見たダンス映像に感化されプロダンサーを志し、明治大学理工学部入学後に学内ストリートダンスサークルで踊り始める。以降、様々な振付家の作品に出演。DanceSpaceWing主催公演「Wing Bell」(2019)アンダースタディを経て、踊り学び続けて今に至る。
現在は自身の創作活動を中心に、主にコンテンポラリーダンスを踊る。今年3月にダンサー タマラと共同で自主公演「岸辺にて」を振付・演出・出演。シンガー、役者、ダンサーを交えて構成された約75分間の長編作品は好評を博す。/ 写真: 中山裕士

田花 遥 @tabamaru17

12歳の時にダンス部に入部し、ストリートダンスを始める。18歳の時にコンテンポラリーダンスと出会う。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。これまで太田ゆかり、鈴木ユキオ、中村蓉、大橋可也&ダンサーズの振付作品に出演。/ 写真:栗田真帆

Mei Yamanaka @mei.yamanaka

6歳でクラシックバレエを田中洋子の元で始める。16歳頃からヒップホップを始め、2008年の渡米後にコンテンポラリー、モダンダンスに出会う。他の振付家作品に出演するほか、自身の振付活動でも数々のシアターで作品発表。各種スタジオのレジデンシーアーティストとしても活動。2014年Italian International Dance Festivalベストダンサー選出。2020年帰国後も自身の創作活動を行いながら、武元賀寿子、山崎広太などの作品に出演。
2018年秋から、ほぼ毎日色々なところで即興で踊り、SNSを通して配信している。その瞬間にしかない風景や、状況と踊りたいと思っている。また、自分の表現や活動が、世の中に良いエネルギーとなって放出されると信じて踊っている。
https://www.meiyamanaka.com/


「unfold」公演情報

2022年11月11日(金)12日(土)
両日とも17:30開演 / 19:30開演
@Cafe MURIWUI(東京都世田谷区祖師谷4-1-22 3F)
チケット:¥2,800(ドリンク付き)


<出演>
岡本葵、髙橋幸穂、田花遥、タマラ、福島頌子、Mei Yamanaka、Rina Takeyama


チケット予約:最寄りの出演者、または下記アドレス宛にご連絡下さい。
お問合せ:unfold.1112@gmail.com
主催:福島頌子

 
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